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研究について

このページでは北岡が現在取り組んでいる研究についてその内容等を簡単に説明します。別刷を見てみたいなあと興味を持っていただけた方はお手数ですが、連絡先までください。pdfファイルか印刷物をすぐにお送りします。

研究のKey words: 樹木生理生態学, 光合成、葉の構造と機能、窒素、SLA(Specific leaf area) or LMA (Leaf mass per area)


これまでの研究


北海道の主要落葉樹葉からのメタン放出についての研究
Keppler et al.(2006; Nature 439, 187-191)は、植物が好気条件でメタンを放出することを指摘し、さらに陸上植物群落のメタン収支を算出することで,森林がメタンの放出源になっている可能性を示唆しました。そこで我々は、日本の主要な冷温帯落葉樹からメタンが放出されているのか検証を行い,さらに陸上植物群落のメタン収支について文献調査から議論しました。その結果、主要落葉樹3種(カラマツ,ウダイランバ,ミズナラ)すべてから,葉からメタンの放出が確認されました。しかし,文献調査の結果,陸上植物群落からのメタン収支に関する算出結果には大きなばらつきがみられ,森林がメタンの放出源になっているとは断言できないことが示唆されました。
Kitaoka, S., Sakata, T., Koike, T., Tobita, H., Uemura, A., Kitao, M., Maruyama, Y., Sasa, K. and Utsugi, H. (2007) Methane emission from leaves of larch, birch and oak saplings grown under elevated CO2 in northern Japan-A preliminary study- Journal of Agriculture Meteorology 63: 201-206.
カラマツ不成績造林地に侵入した落葉広葉樹稚樹の環境応答についての研究

北海道で今後の取り扱いが課題となっている、カラマツ不成績造林地に侵入した落葉広葉樹稚樹について、育成のための基礎的情報の集積を目的とした研究をこ れまでおこなってきました。そのなかでも特に、・更新稚樹の葉の生物季節学的特性(フェノロジー)、・葉の構造と機能に着目した個葉の光合成能力の評 価、・窒素利用からみた光環境の利用能力、について中心に研究を行なってきました。

 1) カラマツ人工林に侵入した落葉広葉樹稚樹4種の光合成系への窒素分配の季節変化
 北海道にたくさん見られるカラマツの林には、ホオノキやミズナラ、シウリザクラやサワシバといった落葉広葉樹が林内に侵入しているところが見られます。 カラマツ林は春先と秋のカラマツが葉をつけていないときは、すごく明るいけど、カラマツが葉をつけている夏はとても暗くなります。このように季節的に大き く変化する光環境下のもとで、落葉広葉樹稚樹がいったいどのように彼らの生存にとって最も重要な光を利用しているのだろうか?おそらく、光合成にとって重 要な葉の窒素の利用の仕方を大きく変化させているのではないだろうか?一般に明所では葉の窒素を炭素固定系に投資し、暗所では集光系に投資することが適応 的な窒素の使い方といわれています。また窒素の利用の仕方は、葉をいつ開き、どれぐらいつけているか(葉のフェノロジー)とも関係していることが考えられ ました。そこで、葉のフェノロジーと光合成能力の季節変化、葉の構造の発達と光合成系への窒素分配の季節変化から説明することを目的としました。
 そこで、光合成系への窒素の分配として、a)集光の役割を担うクロロフィルへの窒素の投資、b)電子伝達の役割を担う電子伝達系への窒素の投資、c)炭 素固定の役割を担う酵素であるルビスコ(Rubisco:ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)への窒素の投資を光合成速度の測定と生化学的手法を用いることで推定しました。その結果、葉の構造を表す指 標の一つである単位葉面積あたりの乾燥重量(LMA)には明瞭な季節変化が見られませんでしたが、光合成系への窒素分配には明確な季節変化がみられまし た。ギャップ依存種であるホオノキは、短い着葉期間を補償するように炭素固定系に多くの窒素を投資し、高い光合成速度を示しました。また、遷移中後期種の ミズナラは、9月下旬まで高い光合成速度を維持しており、その理由として炭素固定系への窒素の分配が高いことが考えられました。これに対して、遷移後期種 で林床に生育するシウリザクラとサワシバは、林冠が閉鎖する前は炭素固定系に窒素を多く投資しているのですが、林冠の閉鎖によって集光系に窒素を多く分配 していることが明らかになりました。
 Kitaoka, S. and Koike, T. 2004. Invasion of broad leaved tree species into a larch plantation: seasonal light environment, photosynthesis and nitrogen allocation. Physiologia Plantarum. 121: 604-611.

2) 光合成能力の年次変動を引き起こす要因についての考察
林冠構成木の開葉・落葉時期によって林床の光環境は大きく変化します。また、気温や降水量といった要因も葉の構造やその機能に影響を与えます。これらの影 響を受けて落葉広葉樹稚樹の光合成能力の年次変動が予想されました。そこで、光合成速度と、葉の構造、窒素利用特性を3年間追跡し、年次変動の有無とそれ が生じる要因について考察しました。その結果、光合成能力には年次変動が見られ、その原因は大気飽差の増大により葉の構造が変化して、葉内でのCO2の拡 散過程に影響を与えていることや、林冠の閉鎖時期の違いによって、林床稚樹の葉の窒素分配が変化することなど、複数の要因が積み重なって、光合成能力の年 次間差を生じていることがわかりました。
 Kitaoka, S. and Koike, T. 2005. Seasonal and yearly variations in light use and nitrogen use by seedlings of four deciduous broad-leaved tree species invading larch plantations. Tree Physiology 25:467-475.

3) 上層木の伐採・収穫を想定した光および栄養塩の変化に対する落葉広葉樹稚樹の応答

 カラマツ人工林における収穫伐採伴う攪乱による環境変化が後継稚樹の炭素固定能に与える影響について,葉の形態と光合成機能から評価しました。上層木の 伐採と窒素沈着を想定して窒素施肥を組み合わせた処理区を3反復設け、落葉広葉樹稚樹4種の葉の構造と機能の変化について検討しました。ギャップ依存種の ホオノキや遷移中後期種のミズナラは葉の解剖特性や窒素含有量を大きく変化させることで伐採後の環境に対して高い応答能力を示しました。これに対して遷移 後期種のシウリザクラやサワシバでは変化が小さく、伐採後の環境に対する応答能力は小さいことが推察されました。また、窒素施肥は葉の窒素含有量の増加や 葉の構造の変化を引き起こし、稚樹が生育する光環境への応答を促進する働きがみられました。

 Kitaoka, S., Watanabe, Y. and Koike, T. Effects of the canopy opening and nitrogen supply on light use traits of four deciduous broad-leaved tree seedlings grown in larch plantations. 投稿中


トウヒ属8種の窒素利用と光合成能力からみた成長特性の評価に関する研究
同一試験地に植栽されたトウヒ属8種の成長特性の違いを光合成能力とそれに強く関わる窒素利用特性の違いから比較しました。その結果、同一試験地でも種によって着葉期間と光合成速度は大きく異なり、このことは窒素利用特性の違いによって統一的に説明できることが示唆されましたた。すなわち、窒素利用の違いが樹種間における成長量の違いの要因になっていることが推察されました。
Kayama, M., Kitaoka, S., Wang, W. and Choi, D.S. and Koike, T. (2007) Needle longevity, photosynthetic rate and nitrogen concentration of eight spruce taxa planted in northern Japan. Tree Physiology 27: 1585-1593.

異なる土壌栄養条件におけるトウヒ属2種の窒素及び光利用特性の比較の研究
北海道の代表的な針葉樹であるトウヒ属樹木のエゾマツとアカエゾマツの成長特性と光利用特性が、異なる土壌栄養条件ではどのように変化するのか葉の構造と機能に着目して明らかにすることを目的に実験を行いました。その結果、エゾマツはアカエゾマツに比べて土壌栄養条件の違いを受けやすく、貧栄養条件では、強い光を受けることを和らげるように葉の構造と機能が変化し、このことが伸長成長にも反映されていることが明らかになりました。
Ishii, H., Kitaoka, S., Fujisaki, T., Maruyama, Y. and Koike, T. (2007) Plasticity of shoot and needle morphology and photosynthesis of two Picea species with different site preferences in northern Japan. Tree Physiology 27: 1595-1605.

4)カラマツの短枝葉と長枝葉の光利用特性の比較
 
 カラマツ林の主要林冠構成木であるニホンカラマツの光利用特性について短枝葉と長枝葉の異形性に着目して評価しました。その結果、光合成速度や光補償点 の季節変化から長枝葉は短枝葉よりも陽葉的な性質を持ち、短枝葉は獲得した空間を維持し、長枝葉は新たな空間を獲得するという役割分担が考えられました。 同様の傾向はグイマツ雑種F1でも見られ、短枝葉では、グイマツ雑種F1のほうがより光補償点が低いことが明らかになりました。
 Kayama, M., Kitaoka, S., Koike, T., Takagi, K., Satoh, F., Wang, W., Shi, F., Sugata, S., Houjyou, H., Sugishita, Y. Nomura, M., Akibayashi, Y. and Sasa, K. 2001. Photosynthetic Capacity of hybrid larch and dwarf bamboo grown in the Teshio experiment forest located at the border between Russia and Japan. Proceedings of International Workshop for Advanced Flux Network and Flux Evaluation, 1:105-108.

 Kitaoka, S., Koike, T., Quoreshi,A.M., Takagi, K., Wang, W., Shi, F., Kayama, M., Ishida, N., Mamiya, H. and Sasa, K. 2001. Seasonal changes in the photosynthetic capacity of Japanese larch trees planted on the Tomakomai National Forest, northern Japan. Proceedings of International Workshop for Advanced Flux Network and Flux Evaluation, 1:109-112.

5)異なる栄養条件におけるクマイザサの光利用特性の違い
  
  林木の更新に強い影響を与えるササの仲間であるクマイザサの栄養塩の利用と光合成特性について評価しました。その結果、クマイザサは気孔反応性が高く、木漏れ日を利用できる能力が高いことが明らかになりました。
 
  Wang, W., Kayama, M, Kitaoka, S. Osaki, M. and Koike, T. 2001. Photosynthetic characteristics of Sasa senanesis grown under low nitrogen, potassium and phosphorus nutrient conditions. Bamboo Journal 18:22-36.


6)冬季の温度環境がイイギリの生物季節にあたえる影響
 
 樹木が熱帯から、凍結や乾燥といった生育にとって不適な冬のある温帯に分布を拡大する際に休眠をどのように獲得したのかを明らかにするために、亜熱帯か ら温帯に分布するイイギリを用いて、亜熱帯である沖縄産と温帯である三重県産の材料の生育温度の違いが種子の発芽や冬芽の開芽に与える影響を評価しまし た。その結果、亜熱帯産のイイギリは冬季の冷温時には温帯産よりも浅いが、休眠状態にある可能性が示唆されました。

 劉 震・中島敦司・ 櫛田達矢・北岡 哲・永田 洋. 1998. 冬季の温度影響がイイギリの開芽に及ぼす影響. 環境システム研究 26:239-244.
 
 Kitaoka, S., Yurugi, Y., Ito, S. and Nagata,H. Effects of pre-treated temperature on seed germination of Idesa polycarpa. XXI IUFRO World Congress (Kuala Lumpur, Malaysia, August, 2000).


軌跡(これまで発表されたもの)


調査風景